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私のはじめての発明と星 私のはじめての発明と星  


 私の初期の発明みたいなものは,星と特別な縁があるようだ.

 きょう2003年7月6日(日曜日)の日経新聞朝刊の科学欄によれば,星が立体的に投影される新しいプラネタリウムができたという.
 これを読んでいるうちに,アイデアがひとつ閃いた.両眼立体視のひとつの方法である.


 映像を両目で見て立体感を再現する立体視の方法は,液晶シャッターやホログラフィーを含めて,今や何十通りもある.だが,カラーの立体画像で常時立体映像を放送するまでに至っていない.それは,決め手となる技術がいまひとつ欠けているからであろう.

 古くから立体視に赤と青のセロファンを使うものは有名であるが,画像が赤と青で入り乱れて独特な不自由感がある.

 これを改良した方式で,偏光で縦にだけ光が“揺れる”ものと横にだけ揺れるものを使い分ける方法が普及している.カラーで見えるのが特長である.

 それは次のようになっている.
 左カメラから撮った映像のディスプレイは縦揺れの光だけ発し,右カメラから撮った映像のディスプレイは横揺れの光だけに発するように,光を偏光フィルタに通過させ,あるいは,液晶ディスプレイの場合,液晶がかけられる電気で光を偏光させる性質を利用して偏光させる.
 一方,見る人は眼鏡を掛ける.眼鏡の左には縦揺れの光だけ通すように偏光フィルタがセットされ,右には縦揺れの光だけ通すように偏光フィルタがセットされる.こうして,立体視ができている.

 けれどもこの方式は欠点がある.顔が傾くと,出している光の偏光方向とフィルタリングしている方向がずれて,左右の画像が混ざって見えてしまうのである.

 そこできょう考えた方法というのは,従来採用されている偏光──直線偏光という──ではなく,円偏光を使うというものである.円偏光は,右まわり揺れと左まわり揺れがあり,これもフィルタで光を限定することができる.だから,直線偏光の方法と同様に立体視ができるだけでなく,顔が傾いても左右の画像は混ざらないはずである.寝ころがって立体テレビを見ようという人にも朗報ではないだろうか,と思った.


 立体視といえば,実をいうと私は大学一年生のときに,心踊らせながら余暇を使って立体テレビの考案に耽っていた.
 図書館で立体視の技術を調べた.
 そして到達したアイデアはこのようなものであった:



 その原理は,図のように2台のテレビからの光を,さきほど述べたような偏光にするフィルタを通し,眼鏡では片方のテレビの光だけが見えるようにする.2台のテレビの画面を重ねるために,いまもテレビカメラなどでよく使われている半透鏡(ハーフミラー)を使う.透明板にアルミなどを薄く蒸着させれば,光を半分通し半分反射する半透鏡ができる.

 前に買った学研の科学の付録についていた偏光膜を大事に使いながら,掌に乗るような立体テレビの模型を作ったものである.
 模型にテレビが使えるほど大きな偏光膜は高価で入手できないし,左右のカメラで撮り分けるテレビ画像など作れなかった.
 2台のテレビはボール紙の箱で,中に豆電球を灯した.
 開けた窓には画面の代わりに,パラフィン紙にサインペンで描いた絵を張った.
 半透鏡がないので,小さいガラス板を使った.

 この方法は眼鏡をかけないといけないのが宿命である.
 模型を作ってさらに気づくことのできた欠点は,光が半分しかこないので暗いことである.
 また,目の焦点と物体の位置の差ができるために,見づらい感じがすることも欠点である.
 それでも立体的に見えるだろうということは明らかだった.

 ただ,特許出願にはなんだか大変な先行特許調査と,出願手続,そして特許庁出願手数料に加えて当時1ページ500円という高額なタイプ印刷費用までもが必要と知った.
 相談相手もなくアイデアの独自性やビジネス性の確信ももてないことから,いつの間にか研究をやめて立ち消えにしてしまった.


 さて,コーヒーを飲み終わった私は我に帰って,さっそくインターネットでブラウザを特許庁につなぎ,円偏光 & 立体の特許を調べた.いくつか見ると,こういうものが出てきた.
 特許2586490「立体映像表示装置」(ソニー株式会社島田 聰氏,砂賀 勝利氏,高橋 勝正氏)(1987年6月19日出願).



 請求項は:
 各表示面A及びBに同旋回方向の円偏光フィルタを備え、
上記表示面をハーフミラーの表裏に所定角度で面して略対称に配置した2つの映像光源と、
上記ハーフミラーの一方の面から上記表示面Aの透過画像及び上記表示面Bの反射画像を重ね合わせて見ると共に、
上記ハーフミラーの他方の面から上記表示面Bの透過画像及び上記表示面Aの反射画像を重ね合わせて見るための、
左右の旋回方向が異なる偏光メガネとを具備する
ことを特徴とする立体映像表示装置。
 発明の効果は:
 本発明は上述のように、表示面A及びBに同旋回方向の円偏光フィルタを用い、左右の旋回方向が異なる偏光メガネを用いて、
ハーフミラーの両面から立体映像を見るようにしたので、
観賞エリアが倍増すると共に、
円偏光の採用により、偏光メガネの視角が画面中心軸から外れても偏光角の偏差とならず、広い水平視野角が得られる。
従って、多人数で観賞するに適したコンパクトな立体映像表示装置が得られる。
なおハーフミラーのいずれの方向から見る場合でも、左右の旋回方向の配置が同一の円偏光メガネを使用することができる。
 円偏光ならセットの角度を問わないので,眼鏡に代えてコンタクトレンズを使うこともできそうだ.こんなメリットも,きょう私は気がついていた.

 さて,上のふたつの図を見比べていただければすぐ分かるように,ソニーの発明は,私の立体テレビの発明とうりふたつである.
 違いと言えば.きょう私が考えた円偏光の採用を加えた点だけ.
 嬉しいような残念なような,複雑な気持ちを覚える.1987年であればこれで特許になったのである.円偏光立体テレビのアイデアは,17年前に考えておけばよかった.
 かくしてきょうのせっかくの特ダネ──特許ネタのことを私はこう呼んでいる──は,私の研究テーマに加わることもなく没となった.


 星で思い出すのは,まだ小学校1,2年生か幼稚園年長組だった頃.
 夜,家の近所を親と歩いていて流れ星を見た.

 「流れ星を見たときに願いごとを言うとその願いは叶う」

という話をはじめて聞いて信じてしまった.それは童話の世界とは違って,とても「現実的な手段」に思えた.
 流れ星は不意に見える.そのとき願い事を思い出して,しかも流れる瞬間に全部言い終わるのは非常に大変に思えた.口の中で言う練習をしてみたが,いざというときに到底できそうもなかったので,私の問題意識は掻き立てられた.

 私はおもちゃでいちばん好きだったものは,ビスとナットで小さい角棒,角板,丸板の部品をとめて構造物を作る,いまでいうレゴブロックみたいなものであった.
 私はまた,当時はぜいたく品だった録音機(テープレコーダ)にあこがれていて,音を入れてあとで自由に再生できて,まるで人がそのままはいってしまうような魔法の機械が欲しくてたまらなかった.

 こういう子供だったので,ついにある日,「望みを叶える万能機」を「設計」した.「設計図」も書いた.いま当時を思い出しながら特許明細風に書くとこんな感じになるであろうか.お笑いいただきたい.



 なにぶん子供のこと,本体に何を入れたらいいか全然分からないし,分かるために何かを勉強する必要があるかどうかも分からなかった.とにかく「マイク」で望みを聞くところこそ画期的な解決法だと思い込んで興奮していた.
 自分の生きている間にこんな自動機械が作れたらいいなと願った.誰かが作ってくれるかもしれないとも思った.
 そんなぼんやりした夢の箱が,幼い私の最初の考案だった.

 その後,折にふれてこの「望みを叶える万能機」のことを思い返す.

 むろん,そんなものができるようなうまい話は聞かない.
 しかし,いま目の前にあるコンピュータ.これは,私が子供の頃,まわりの大人だってたぶん想像していなかったような「魔法の箱」ではないだろうか.学生のときの研究テーマをコンピュータにして以来,自分でもいろいろな夢をコンピュータで実現してきた.これからも飛躍的な進歩が何度も訪れることは間違いない.
 タイムマシンでさえ,物理学者は,実現を可能にするための仮説を挙げ,条件を算定している.その手の本を読めば載っている.絶対不可能といい切る人の考えこそ信じられない.
 やはり素朴な夢や理想は,できるわけがないなどと簡単に捨てずに大事にしたいものだと,つくづく思う.


 あぁ,いま零時を回って,今年も七夕の日が巡ってきた.
 みんなが会いたい人にたっぷり会えて,望みがたっぷり叶いますように…….



BGM 「ピアノソナタ 第13番 変ホ長調 Op.27-1(幻想曲風ソナタ)」

 作曲     ルートビッヒ ファン ベートーベン
 演奏・MIDI化 山崎 真

  
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