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反対語のテストなんてナンセンス 反対語のテストなんてナンセンス  

 テストで,反対語(はんたいご,反意語,はんいご,反義語,はんぎご,アントニムは何かときく問題がありますね.

 先生が想定している“正解”がたったひとつで,それと違う回答にはバツをつけて0点にしてしまうのはひどいと思います.思考力の豊かな子供には相当ショックなことです.

 言葉というのは,見かけ上は文字や音の並びです.
 でも,言葉が意味をなすのは,話す人と聞く人が,その言葉を使った類似の場面を連想して,適用するからです.
 つまり,話す人の頭の中と,聞く人の頭の中に,その言葉がこういう効果を発揮したという共通の場面の知識をたくさん共有しているからこそ,言葉がいつも一定の効果を発揮するわけです.

 しかし世界は複雑.同じ言葉もいろいろと違った場面で使われます.このことから,言葉の意味が2個以上辞書に現れるのもうなずけます.
 辞書は古今東西すべての用例を収集することができません.
 また,いまここで私とあなたが少し違う意味で使って用例がひとつ増えたとしても辞書に載せてくれるわけがありません.

 このようなわけで,言葉の実際の意味は,辞書の何倍も何十倍も,ときには何万倍もあると考える必要があります.

 これは,法律と判例の関係と似ていますでしょ.

 反対語は,ある場面で反対の効力を発揮する言葉です.場面が無数にある以上,反対語もそれぞれ変わって当然です.いわば,ものさしがたくさんあるので,ひとつに決まらないという感じです.


 そこで,

「高い」の反対語は何?

という問題を取り上げましょう.

 「そりゃ「低い」だろ,さよなら」

って? ちょっと待ってください.

 30分ばかり考えたらこんなに挙がりました:

 高いの反対語は──

■単なる
  例: 高機能⇔単機能
■平らな
  例: 高官⇔平官僚
    高原⇔平地
■大人しい
  例: 高い鼾(いびき)⇔大人しい鼾
■初
  例: 高級⇔初級
■弊
  例: 高説⇔弊説
■廉
  例: 高価⇔廉価
■地
  例: 高架⇔地下
■若い
  例: 高年層⇔若年層
■無い
  例: 高名⇔無名

 まだまだ,中,愚など一杯あります.
 なにか無理っぽいでしょうか?
 ではこれで決まり!

■薄い
  例: 高給⇔薄給

 否定表現を思いっきり集めて,次のように書いてくる子がいるかもしれませんが,あなたはそういう子に0点の烙印を押すべきでしょうか:

 高いの反対語は──

高くない,高くはない,高からず,低からずや,高いわけがない,高いわけじゃない,高いだろうか,高いもんか! 高いですって? 高いかよ,チビで悪かったな,もっと値段釣り上げても大丈夫,僕にも買える,おまけが一杯つく,ローンで買える,今買わないともう手にはいらない,もっとお高い超高級品もございまして,高いとは承りましたが,異常に高いというわけではございませんので,いえもうこれ以上は勉強できません,そういわれましても原価割れの出血大サービスでして,高くないなどと申しあげたらお叱りを受けるでしょうが,高くないとただちに断定することはできない,高いと申しあげたかどうか記憶が定かではございません,高くないとした判決が失当であるとする理由は見当たらない,高いとする判決を却下することを失当だとする理由は見当たらない,もういい分かった高いことにしよう,うふふ高いわよ.

 ほかの例もあげましょう.
 「薄い」の反対語は「濃い」だけではなく,「厚い」もそうでしょう.上であげた高給⇔薄給の給料や関心では「高い」.光なら「強い」

 「非」の字や「不」,「無」の字をつけたりとったりする反対語問題はよく出ます.そんな場合でも答がひとつとは限りません.「強力」の反対には「無力」もあれば「非力」もあります.「厚情」,「人情」の対極には「不人情」,「非情」,ああ「無情」まであります.
 そのうえ,ありそうな反対語が存在しない場合もあります.「不思議」の反対は「思議」? そんなことばは聞いたことがないですね.


 英語だって,反対語がはっきりなんてしていません.
 hotの反対は?
 coldと主張する人がいるかもしれません.
 でも,エアコンのボタンの名前やジャズだったらcoolでしょう.
 コーヒーだったらcoolよりもiceがいいでしょう.
 気性ならcalmという言葉もあります.
 カレーだったらmild,ニュースならold,体温ならnormalかもしれません.
 もしホットパンツの反対語を聞かれたら?

 closeの反対がopenかと思うと,disclose(開示)なんていう言葉も経済や政治で流行っています.

 endの反対はstartだけでなく,begin, beginningもあります.
 店ならopenやopening,人ならbirthではいけませんか?
 エンドユーザと計算センターの対比を念頭に置いているシステムエンジニアだったらcenterというかもしれません.
 木材を加工している人だったら,endの反対は反対側のend(端)でぃ,と答えてもおかしくありません.


 反対語はひとつと言い切れませんし,すべての反対語を調べ尽くすことも原理的に不可能です.こんなテストは無意味です.

 ですから,国語・外国語にかかわらず,反対語のテストは全廃しましょう





2007-04-23 YO
はじめまして。

「反対語」の調べものをしておりましたら 「反対語のテストなんてナンセンス」のページに出会いました。
思考力豊かな子供たちの能力を制限してしまう、との懸念、まさにそのとおりだと思います。
そして全文を読んでみて  おっしゃりたいことはよく解りました。

ただ冒頭に「先生が想定している正解がひとつで それと違う解答にはバツをつけてしまう」という文で始まり「なので反対語のテストは全廃しよう」という結びは焦点がズレている気がします。
この表現ですと 先生が採点の方法を見直せば 全廃するほどではないのでは?と思ってしまいました。

書かれているとおり ひとつの言葉に対して 反対語を多く持つものもあります。(というか ほとんどですね)
しかしながら 例として書かれていた「高い」の反対語として まずは「低い」と思いつく感性も大切かと思います。
個性的であることも非常に大切ですが「普通の(大多数の)人は こう考えている、思っている」と知ることも人間には大切だからです。

つまり何が言いたいか、といいますと やはり「全廃」という表現は おかしいのではないか、ということです。
そして、出題のしかた、採点のしかたを改善すれば 意外に良い問題なのではないか、と。

「反対と思われる言葉をすべて挙げなさい」なら 知っている範囲の言葉を一生懸命 探す、思い出す作業は良い問題だと思います。
そして固定観念にとらわれない採点方法。
ネットのような公の場では こちらのほうを声を大にして取り上げ、変えていってほしいと思います。


園部研さまが 何をなされているのか、まったく知りませんでしたが 子供を持つ親として 一意見を書かせていただきました。
突然のご無礼 お許しくださいませ。

2007-04-24 園部
YO様
園部です. ご意見,玩味熟読いたしました.
ごもっともです.
私が教員であればぜひ,頭の柔軟性,そして物事は1か0じゃないんだと教えるきっかけにもなる,反対語を使った授業をしてみたいと思います.

この授業をするには教員側の頭も相当柔軟で,しかも豊富な知識やひらめきがあり,子供の方が素晴らしい反対語のアイデアを見つけたときにも認めてあげるといった謙虚に姿勢をもっていなければいけません.

それに加えて,採点までするとなると,どう採点すれば合理的なのか,頭が痛くなります.
普通の答,普通の答ではないけれど視点を変えればすぐ納得できる答,ひとりよがりのような飛んだ答だけど説明を聞けば間違いはない答.説明を聞いても分からない答.どれをいい点数にしてほめるべきでしょう.複数の子の答に優劣を付けるのもつらい.そして採点している自分の頭の方が硬いんじゃないだろうかという不安…….
結局,何か書いてあれば1点,書いてなければ0点にするしかないのかも…….
私は教員でなくてよかったと思います(笑).


2007-04-23 YO
園部さま

こんにちは。YOです。
一介の通りすがりの者の意見に真摯な対応をしていただき、ありがとうございました。

まず 見ず知らずの方のサイトの文に 突然意見してしまったことを再度 謝らせていただきたいと思います。
大変 失礼いたしました。

私も何故 一言お伝えしたいと思ったのかわかりません。
元来 そういうことはしないタイプなのです。
多分 園部さまの文全体から醸し出されていた何か、文の裏の真意のような物に触発されたのだと思います。
そして 結果的に このような意義のあるお話ができたことを嬉しく思っております。
ソーシャルネットワークなどでも 性別、年齢、地域を越えた様々な出会いがある今日、上手に利用すればネット社会も捨てたものではないな、と実感させられます。


私は 個人で鍼灸院をしております。
整形外科などで受診した際に 痛み、違和感があるのに外科(手術)の必要のない方は
「とりあえず湿布を貼って、薬を飲んで様子を見て」という診断を受けてしまう場合があります。
こういった方々の症状を多く診ております。
私は まだまだ若輩者(37歳です)で 後進に技術を伝えるというレベルではありませんがたまにそういった機会に立ち会うと 人に何かを伝える難しさを痛感させられます。
大人を相手にしても困難なものが 子供相手、それも小、中、高校と 教育機関のそれぞれに難しさも異なってくると思います。
そんな仕事をされている教員の方々は 大変な労力かと思われますが 是非 今回 園部さまとお話できたような感性を持っていただけたら、子供たちの未来は少し広がる気がします。


今回 ご返事いただいた内容を加味して、改めて「反対語のテストなんてナンセンス」と読ませていただくと完全に同意することばかりです。
私も教職を選ばなくてよかったのかもしれません(笑)。



 
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- 最終更新日 5405日前: 2009. 7. 2 Thu 19:01
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