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【22世紀へ!園部研】
立体テレビについてまた考えた 立体テレビについてまた考えた  


 私はゆうべ(2009/10/31未明),食後にテレビを見たあと,裸眼立体テレビができないか考え始めました.

 このあいだ(2009/10/10)も,幕張メッセで開かれた国際家電見本市「シーテック2009」に,立体テレビのデモを見に行きました.まずその話から.

 日立,NHKなどの立体テレビを中心に見たのですが,なかなか決定版がなかったんです.

 各社,3D TVは家電の王様という感じで,ブースに部屋を作ってお客を並ばせていました.ちょっと,もったいぶりすぎではないでしょうか.
 シャープとSONYの3D TVは35分待ちというので,疲れるからパス.

 新聞記事になっていた日立のはメガネが要らない新方式.
 10分位待ったのに見られる時間は数十秒.実際見ると,本当に立体なのと,観客がみんな体を揺らして確かめないといけない感じでした.試作なので解像度も奥行きもイマイチ.プロジェクタを複数使うから洗濯機のように大きく,テレビにするにはもうひと工夫要りそうでした.

 ソニーのショウは部屋にはいらずに見られましたが,普通の偏光方式でした.偏光メガネをカッコよくつけたふたりのモデルがそれぞれ組んだ脚も美しく立体テレビを見ているという,生活シーンを強調していましたが,観客は偏光メガネががないので体験できないのは物足りないものでした.

 NHKの展示は20分待ちでしたが,面白そうなので列に並んで入りました.かぐやの月面撮影の,元は立体でない動画をもとに,この映像の特質を活かし各点の距離をソフトウェアで動的に計算して立体化したもののようです.
 回転する大きな月面と本当にその向こう(無限遠に近い)に見え隠れする青い地球は,サウンドの効果もあり崇高な美しさを感じさせました.でも方式が偏光方式で目新しさがありませんでした.

 むしろその待合空間にあった裸眼3Dの展示が,静止画ながらよくできていました.
 これは額にはいった絵なんですが,描かれた建物群が額の面からこちらにものすごく出っ張っています.見る方向で建物の左右のかなり異なる角度から眺められます.
 偏光メガネで見ても変わらないので偏光は使っていません.ブースを出てからNHKの係員の方に聞いても原理をご存知ありませんでした.パララックス方式っぽいと思いました.こっちの方が面白いのにかぐやの映像を待っている人は通りすぎるときにひと目見ただけであとは見もしないのが,妙な感じでした.

 ちなみに携帯の液晶画面は偏光を使っているので,偏光メガネの片方では真っ黒になりますし,どちらかを90度回転すると変わります.人のかけている偏光メガネが片方黒くて,動くとピカピカするのも楽しいですね.

私が学生の頃はこの偏光フィルムの入手が大変でした.弟がその友人にお願いして科学雑誌の付録の偏光フィルムを譲っていただきましたが,それも模型の2枚の“画面”とメガネの左右に必要な面積が確保できませんでした.

 ボール紙枠のその偏光メガネをバッグに入れて持ち帰ろうとしたら,出口で回収されてしまいました.

 あと,FAシステムエンジニアリング社が, 道後温泉前に置かれたライブカメラから,立体で風景を中継していました.借りた偏光メガネでテレビを見ると立体に見えます.
 偏光メガネ方式は,近年の主流ですが,生中継というのは面白く感じました.
 道後温泉にいらっしゃいと話しかけている人も,数cmの模型のようでした.普通のテレビでもたしかに画像は小さいのですが,これは何でしょう.失礼ながら人間の模型に話しかけられても信じられないなという感覚が湧きます(笑)
 人力車に乗った新婚夫婦がカメラに近づいてきました.やはり人形のように空間に浮かんでいて,どんどん小さいくなりながら(?)テレビの手前1mにも近づいてきたりしました.どうして道路が浮かんでこちらに連続していないのだろうというのは不思議です.
「箱庭効果」という言葉があるとゆうべ知りましたが,まさに箱庭的でした.
 
 同じ会社が同じ手法で,心臓手術映像のビデオを立体でやっていました.拡大しているので何cmもの奥行きがあり,糸で縫っていく様子もはじめて拡大して見ました.


 シーテック2009の立体テレビの話はここまで.
 液晶ディスプレイに表示した左右の像を,至近距離で見るひとりの人の左目と右目にそれぞれれ見えるようにする方式があります.カメラや携帯電話で流行っています.ただ,視野角が狭く,広い部屋で何人もが見られるテレビには使えません.

 裸眼の立体視でパララックスという方式もあります.大画面向きです.それでもデジタルサイネージ製品に採用した例では,通りがかりの人も思いがけず立体が見るので驚いて立ち戻って見入って人だかりになるほどインパクトがあります.スムーズさや自然さはいまひとつのようです

 お札やクレジットカードでおなじみのホログラフィーによる立体視.これは静止した写真だったら最高にリアルです.しかし,動画を映すテレビ,特にカラーとなると,光の波長に比べていまの画素サイズが何桁も大きすぎて,実験例はありますが当分実用化できそうもありません.

 で,ホログラフィーに似たことを別の方法でテレビにできないかというのが,ゆうべ私が考えた課題です.

 部屋のどこでも裸眼で見える立体テレビって何だろうとウンウン考察した結果,テレビの画素それぞれが上下左右180度近くに,撮影されたときのその場所が受けていた上下左右からの光の色と強さを(位置を反転して)忠実に放射できればいいだろうという結論に達しました.カメラが右上の物体からの光を複数の受光素子に受けたなら,それを伝送して,テレビの同じ位置の発光素子が,きた方向に依存したある方向にそれらを出す.これは光が直進するからです.いろいろな物体があり表面の多数の点がそれぞれ光を放つので,受光素子も発光素子も,全方位からの光の強さと色を全部記録して全部同時に再生しなければなりません.

 そして次に,そういうデバイスを考えました.

 ふつう大雑把にいって,テレビ画面に1,000×1,000で100万画素くらいありますね.
カメラではそれぞれの画素を,各方向から光を受ける100万画素のマイクロカメラ,
テレビではそれぞれの画素を,各方向 へ 光を発する100万画素のマイクロテレビ
にするという大それたものです.

 画面が半球型に近いマイクロテレビを数mm以下に縮小して,縦横1,000台×1,000台の計100万台並べたものを大きな1台とするわけです.



考えた立体テレビの画面拡大イメージ
 半球状の数mm以下のマイクロテレビが並び、撮影時に各位置に桜並木からきた光線を
再生時にその方向に延長して放射する.各球の輝点からの光によって網膜に結像し,
桜並木は奥に凹みながら続いているように見える……はず.
 顔を動かせば見える輝点,光線の角度が変わり,違う角度の景色となる.
 このイラストで各マイクロテレビ上の全画面が見えているのは正しくない.
 各半球上で,見る人の右目,左目にそれぞれ向いている各1画素だけが見える.
 このイラストは立体視できない.


 最初,カメラを通常の2眼式の3Dカメラにと考えたのですが,その2枚の画像を100万マイクロテレビの各100万画素,つまり計1テラ(1兆)画素の輝度に変換するのはリアルタイムには無理そうでした.そこで,カメラも同じようにマイクロカメラを並べることにしました.これなら計算が要りません.

 左目と右目で見えるマイクロテレビ上の光っている位置,つまり放射角度は若干異なっています.
 多くのマイクロテレビの発する光が,空間のある1点を通過して人の目にはいってくるとき,その1点に実物があるというのと同じ光の状態になります.実際いくつもの画素から光線がきて,近くなら近くに合わせて膨らませている目のレンズを通って網膜に像を結びます.

 いまの技術では高価すぎますし,通信の帯域も足りません.でも,いろいろスペックを削ったり,素子の製造を工夫したり,データを圧縮すれば,粗いものならできるかもしれないなと思いました.
 詳しい方法はまだ検討するのでここでは公開しません.

 この方式の特長は以下のとおりです:


 ●偏光メガネ不要

 ●モーターで回るような機械的可動部は不要.複数のプロジェクタのような大がかりな装置が不要.カメラはわずか1眼.
(といっても,カメラとテレビは相当多くの素子を含む装置ではある)

 ●正面から見る必要がない.
  斜め左右や斜め上下から見ても,
  寝っころがっても立体視できる.
  複数の人には,同じ立体画像でなくそれぞれの位置からの画像が見える.

 ●水平方向だけでなく,垂直方向も立体像になっているのでとても自然.
  見下ろせば物体の上,見上げれば物体の下が見える.
  手前の物体と奥の物体が重なっているときは位置を変えれば見えてくることもある.

 ●空中に像を結ぶので,(スクリーンが視野にはいっているなら)眼前から無限遠まで,幅広い奥行きを忠実に再現できる.
  (カメラの前にレンズをおけば調節はできるが,ひとつの距離にピントを合わせて絞る必要がなく,人ひとりひとりが自分で好きなところにピントを合わせて自由に見える)

 ●テレビの画面上でなく空中に像を結ぶので焦点距離と視差に矛盾がなく,偏光メガネでの視聴でおこりがちな,眩暈(めまい),吐き気などの酔いが起こりにくい.

 ●片目で見ても立体感がある(ふつうに実世界を見ているときに片目で近くや遠くを見て試してみればその感じが分かります).

 ●再生しているときに写真,映像,立体写真,立体映像をいろいろな角度から撮っても,その角度から見た映像が正しく録れる.

 ●空中に像を結ぶので,テーブルに画面を埋め込んで,テーブルの上空から下への空間に物品や景色や人などを立てたり浮遊させて見せる使い方もできる.

 ●どこでもいいから1点から上下左右前後6方向に向かってこの方式の立体カメラで撮影した映像を,6面この立体テレビで包み込んだ四角い部屋で同時に写すとどうなるでしょう.壁が透けて,撮影した部屋なら部屋の内部の立体物と,さらに映写している部屋のサイズの外側に撮影時に見えていた風景の近景や遠景が,ことごとく再現できると思います.視覚上はまさに完璧な仮想現実,すごいことになると思います.こんなぜいたく,一生に一度でも体験してみたくないですか!?


 こんなに素晴らしそうなものだから,特許の有効な20年先に実現できないかもしれないけれど,とにかく特許を書いて出しておこうか…….

 3時間位考えつづけ,朝5時になってうつらうつらになってしまったので,寝る前に眠い目をこすりながらパソコンで検索しました.
 そしたら,国内の立体テレビ技術の非常によいまとめが見つかったので,面白くて目が覚めてしまい,さらに2時間位読み耽(ふけ)ってしまいました.

 それがこれです:
   ■ 3次元情報のインタラクティブな利用に関する調査研究報告書
   (日本機械工業連合会,日本オプトメカトロニクス協会,2006年)


 結局,私の思いついた方式には既に「空間像方式」という名前がついていて,国内ではそれを特殊レンズで実現したNHKのインテグラル立体テレビ,東京農工大の高密度指向性表示などの研究が行われていることが分かりました.



インテグラル立体テレビの原理
(上記「3次元情報のインタラクティブな利用
 に関する調査研究報告書」p.154 から転載)


 ここでレンズの「アレイ(array)」とあるのは,上下左右に敷きつめられた微小レンズの配列のことです.
 偏光方式は人によって酔ってしまい長時間の視聴はつらいかもしれないですが,こちらの空間像方式の方は自然なので目や脳への負担が少なく,決定版の方式として大いに期待がもてます.

 上記報告書では実現は2020年以降と予想しています.
 NHKや農工大の技術をお金をかけて拡大すれば,意外に早く私の方式の(じゃないって)立体テレビ放送が実現しそうな気がしてきました.
 
 そんなわけで,園部研究室はまたまた大ヒット発明を逃して残念でした(笑)
 でも基本原理はともかくとして,具体的な実現方法でまだ発明の余地はたくさんありそうです.


※ 本記事は,論文にするほど注意深く正確に書いてはいませんのでご注意ください.空間像方式の原理や利点をここから引用すると間違うかもしれません.

その後見つけた情報へのリンク:
■ Giz Explains:皆が気になる3D技術、総まとめ(動画あり)(Gizmode Japan)
■ 「インテグラル立体テレビ」を体験してきました(写真あり)(Gigazine)
■ 「インテグラル立体テレビ」の動画を検索
■ 「インテグラル立体テレビ」の画像を検索
■ 業界最小・最薄のCMOSカメラモジュールを開発、発売(シャープ)
→ 1.4μmの画素なら1,000ピクセルでわずか1.4mm.いいとろまできています.回路を左右に張り出させず奥に長くなるように再設計して幅8.5mmを3mmに縮めれば,このマイクロカメラを1,000個並べても3mで納まります.
 もう1桁縮めてテレビカメラサイズにして欲しいですね.
 1桁縮められれば,可視光の波長が380〜750nmですからホログラフィーの縞模様の記録も見えてきます.2方式の競争になります.
 問題は価格です.今はサンプル価格5,000円で100万個揃えるとなんと50億円! これでは研究さえできないでしょうから,製造方法をまったく変えて最初から集積カメラとして作り,価格を一気に3桁縮めて欲しいものです.4.5桁まで縮めればパーソナル機器になりますが,それは22世紀までかかってしまうでしょうか…….
■ ここが詐欺だよ、3D映画(Alexander Murphy,satomi)(Gizmode Japan)
■ 3Dパソコン比較記事(3Dパソコンブームが急加速! 富士通も「ESPRIMO FH550/3AM」で参入)(nikkei TRENDYnet)
■ Microsoft の3Dは目に直接ビームする(Gizmode Japan)
→ その後私は,視聴者の目の位置を追随してそこからなら裸眼で立体映像が見えるという,性能上有利な裸眼3D方式のアイデアを密かに温めていました.ところが……しまった,そのポイントはタッチの差でマイクロソフトに先を越されてしまった……かな!?
BGM 「ピアノソナタ 第13番 変ホ長調 Op.27-1(幻想曲風ソナタ)」

 作曲     ルートビッヒ ファン ベートーベン
 演奏・MIDI化 山崎 真

  
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