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公衆自動搬送システムCATSの画期的発表論文 公衆自動搬送システムCATSの画期的発表論文  
「情報処理学会 利用者指向の情報システムシンポジウム
 論文集 pp.83〜90 (1996年12月5〜6日 東京渋谷 国學院大学)」


21世紀情報化社会の新基盤となる,
公衆自動搬送システム CATS


   園部 正幸  *1

株式会社 富士通研究所 情報社会科学研究所

 情報通信ネットワークと連携し,物を人から人に,安く速くきれいに確実に運ぶ,公衆自動搬送システム CATSのコンセプトを発表する.
 CATS物流インターネットであり,情報処理技術が応用できる.CATSの課題と実現法を示す.電子取引連携,水平維持,オートロック,物品認証などが有効である.


  † Common Automatic Transport System: CATS, a Novel Infrastructure of the 21-st Century Informatized Society, by Masayuki SONOBE, Institute for Social Information Science, Fujitsu Laboratories Ltd.
  *1(Web注)ここに当時のメールアドレスがありました。



1.はじめに

 人は情報のみにて生きるものにあらず.
 (パンもなくては生きられまい.)
 情報・カネ・人・物,の流れのうち,物流の進歩の遅れがネックになりそうである:

    (1) 情報の流れ ──  爆発的進歩で,情報通信ネットワークで広い情報に瞬時にアクセスできるようになった.われわれは「仮想世界──現実社会──データ世界」の形のアーキテクチャ Socialware を提案し [1],役立つ3次元仮想都市 Digital City を構築している [2]

    (2) カネの流れ ──  暗号認証 [3]電子マネー電子市場,の技術が育った.SocialwareLand [4] は,売れた商品の評価から自動値上げ/値下げもする.

    (3) 人の流れ ──  ゆりかもめなど無人運転の新交通がある. 高度道路交通システム ITS(Intelligent Transportation Systems) も建設省土木研究所,AHS研究組合が研究中.米国は20年間に2,440億ドル(約27兆円)投資する [5]

    (4) 物流 ──  1980年代末,都市計画の検討 [6] の中,大深度地下利用を含む物流システムが10以上構想された [7].現在研究中の3種は,相互接続可能:
    地区内端末物流(建設省建築研究所,12社の地域内物資集配送システム研究会)──6社の都市環境問題研究会が提案した ロジスティクスLAN [7] が基礎.4街区前後の商業地域の地下にリニアチューブなどの自動搬送ネットワークを敷設.トラック用の地下ターミナル,各ビル地下の集配デポ(deposit),各フロアを結び,電子鍵付きロールボックスで共同集配送を行う [8,9,10]

    都市内新物流システム(建設省土木研究所,新物流システム官民共同研究)──幹線道路地下を2t電気トラック(DMT,Dual Mode Truck)が無人走行 [11]

    都市間新物流システム(同)──高速道路地下または中央帯をDMTが100km/Hで無人走行(第二東名神で計画) [11]
    ほかに,通産省系の新都市廃棄物輸送システムや,70km/Hのリニア自動列車で10郵便局間を結ぶ地下環状線 東京L-NET 構想 [12] などがある.ロンドンの無人の郵便地下鉄(1927年〜)は有名であるが,外国は都市集中が軽いせいか物流自動化構想は目立たない.

 「この調子で物流が増加すると都市の交通渋滞,公害,人手不足で行き詰まる」という危機感から出発した上記現行プロジェクトは「まず個別運輸業ありき」である.主役は電気トラックで,自動搬送システムはエリアごとに閉じていて標準がない.

 しかし一方,運輸業者は内部で,荷物追跡,配送最適化など情報化してきた.消費者,生産者,流通業者にも,CALS(Commerce At Light Speed,光速の商取引)など情報通信技術を活用する流通構造改善の必然性がある.そこで,部分最適解の連結と別に,社会トータルの最適解を考えよう.

 2010年頃は,1)国際的,業際的にボーダレスな大競争社会,2)環境悪化と高齢化で生き難い社会,3)ライフスタイルが多様化した個の時代,になると予測する.

 過去15年間,郵便物は年率4.3% [12],郵便小包は12%,宅配便は16%で伸びてきた [13].今後は個の欲求の増大に情報通信の発達が拍車をかける一方,高齢化で人の動きが鈍る.その結果,物流,特に通信販売多頻度小ロット輸送のニーズが急増する.

 本当に交通渋滞,公害,人手不足が深刻化する.輸送が高く,遅くなる.物価が上がり,生活や経営が苦しくなる.鉄道などへのモーダルシフト,ITS,新物流システムで,情報流の爆発的発達に対応できるだろうか? 日本は流通マージンが多くを占めて物価が高く,今でも衣料品は米国の1.5倍,食料品は2倍だというのに  [14]


2.ソリューション

  慣性の法則と力学的エネルギー保存の原理によると,摩擦,抵抗,衝突,変形などの損失がなければ,同じ高度の地点への搬送に要するエネルギーの総和は0である.

 所要時間も,地球上の任意の二地点間の直線トンネルに物体を“落とし”,重力による加減速を損失なしに利用できれば, R:地球の半径,ρ:地球の密度(一定と仮定),M:地球の質量,G:万有引力定数 *2とし,分間で搬送できる.高い輸送料は,物理学的にはタダなのに摩擦のせいで払っているようなものである.

 こう考えると,もしドアツードアの一貫した自動搬送システムを効率よく作れれば,かなり事態は良くなると仮説を立てた.

 どうせなら,情報流と物流の融合まで目指す.計算機制御を駆使して,従来の新物流構想にないきめ細かいサービスを実現し,多品目を搬送する.情報処理を物流に応用するには,データは物品に,送信は搬送にと言葉を置き換えてみればヒントになる.ロジスティクスLAN
[7] の命名法に習うと,われわれは「物流インターネット」を構想する.



  *2(Web注)「M:地球の質量,G:万有引力定数」が抜けていたので補いました.


3.CATSのコンセプト

 情報流と物流を融合する,公衆自動搬送システム CATS *3 (Common Automatic Transport System)のコンセプトをデザインした.



図1: CATSの概観


  *3(原注)商標ではなく議論用の概念名.
と読んでよい.


 3.1 CATSの定義

 CATSは,「情報通信と連携して,国土の地下,地上,海中,空中などに敷設する搬送機構により,家,会社,店,公衆ポストなどのターミナルから発送される物品を,宛先のターミナルまで搬送するシステム」である(
図1).

 工場,倉庫,販売会社,商店,家庭,ゴミ処理場などを搬送機構で結び物品を運ぶ.建物は,インターネット/CATV/専用網などの情報通信ネットワークでも結ばれ,買物,仕事,勉強,遊びができる.

 CATSを自動機器と接続して物流全体の自動化を進める:自動倉庫,在庫から注文に応じて商品群を取り出すピッキングシステム,貨物車への積込み・積卸し機入れ子格納・分解機自動発注・補充機(家庭でも米やトイレットペーパーで使える),自社倉庫からの補充や,購入先への発注を自動的に行う自動陳列棚,物品を街頭で送受できるCATS公衆ポスト.商品補充と集金に人手が要らない完全自動販売機など.


 3.2 CATSの構造と典型的動作
    (1) 加入 ──  利用者CATS施設を運用する事業者と利用の契約をし,利用者側に設置するターミナルと引込み線の設備費と工事費などを払い,CATSネットワーク(図2)に加入する.



    図2:CATSの構造


    (2) 見積り ──  発送者はターミナル画面などで, 運転制御局 OCS(Operation Control Station)に搬送条件を伝える.宛先は受領者のCATSアドレスで指示する.電話番号,住所からもCATSアドレスに変換可能.経路が計画され見積料金・時間が示される.依頼すると契約が成立し送料が決済される.

    (3) 発送 ──  物品に適したカプセル台車(carrier)が割り当てられプールや軌道から来る.カプセルに物品を格納し,カプセルを施錠し,台車に施錠結合(マウント)する.もしカプセルだけがターミナルにセット済であれば,空台車が来てカプセルを自動マウントして出発する.カプセルは外して保管できる.外れている間のみ保証料を預かる.

     OCSは台車とカプセルのIDを認識して所在を正確に管理する.カプセル/台車のIDだけならバーコードでもよいが,既存の標準物流シンボルITFや標準PDラベルのバーコード [15] だけでは,その搬送を一意に特定できない.そこで,非接触読み書き可能の電子タグ [16] をカプセル/台車に装備し,搬送ID,宛先その他をもつ.携帯端末でも伝票情報を読める.台車の位置はOCSが制御して,台車側の自律性を抑える.この方が現実とのずれを防ぎ,経路制御に基づくフロー制御もより正確である.カプセル・台車のすり替えを防ぐため,本人認証技術 [3] を物品に応用し,OCS対 台車/カプセル/ターミナルが相互に相手を検証する(Object Authentication,物品認証機能).

    (4) 搬送 ──  保険,返品,取引証明などのため開錠・内容確認を行う者が指定されていれば第三者経由させる.搬送中,渋滞,障害,災害,カプセル多重化,受領者の不在・移動・拒否・代行・交代があれば経路は動的に変更される.品質保持などのため,到着期限時刻が迫った場合,至急扱い,返品,発送者指示待ち,保冷倉庫退避などが指示される.

    (5) 受領 ──  ふつう到着台車は外で待たされ,受領者のターミナルに到着案内される.(電子メールと同様)受領指示はいつでもでき,台車がターミナルに入線する.なりすましを防ぐため,受領者の本人認証成功後,カプセルのアンマウント開錠が可能になる(Autolock機能).代金回収はこの瞬間に実行される.発送者に搬送完了通知が行われる.


 3.3 CATSネットワークの特徴

    (1) 公衆網である ──  CATS搬送路がカバーする地域では,市民や団体がお互いの間で物品を自動搬送できる.

    (2) ライフラインである ──  CATSは食料や薬も運び,電気や水道と同様,ライフラインになる.止まれば地域全体が麻痺して,人と車で代替しなければならない.逆に,災害時にCATSが動いていれば,飲料水,防火用水,食糧,衣料,薬品の貴重な補給路になる.

    (3) CA(City Automation)である ──  街の交通・運送機能の自動化である.

    (4) CATS Shoppingができる ──  電子取引連携機能をもつ:人が仮想商店街などで買物をした情報通信ネットワークから品目・宛先情報を受信し,日用品,生鮮品,料理等でも実店舗や倉庫からきれいに速く安く確実に届ける.結果を情報通信ネットワークに返信し代金決済させる.電子取引とCATSの相乗効果が生まれ,今の常識を越えた超マルチメディア社会 [17] が実現する.


4.CATSの課題と実現法

  安く,速く,きれいに,確実に運べるようCATSを設計できれば,適用性が大きい.

 4.1 安く運べること

 d:距離(km)として,(円)といった 非線型料金体系を提案する.この関数形が,地域商業あるいは小売の保護政策を示す.また,a:振替額 (円)として,(円)といった 非線型振替手数料体系も小額電子取引の振興策となりうる.

 国土に建設するので敷設距離が気になる.しかし,東京都23区内の上水道配水管(道路の本管までの部分であり利用者負担の給水管は別)14,914km も,事業所+世帯数で割ってみれば 3.57m/軒 にすぎない.

 工費削減のために,障害物をソナーで探知しながらモグラのように地中を堀り進む(シールド工法).土砂と材料の自動搬送,自動内装工事にCATS自身を利用する.


 4.2 速く運べること

  搬送単位:カプセルは以下に述べる小型と,複数まとめられる大型を考える.連結で変身するのも面白い(メタモルフィック搬送 [12]).われわれはカプセルを自動/手動で何重にも入れ子にし内容を電子管理しつつ一括搬送するネスティング搬送を考案した(多重化通信と同様).多重化カプセルは,大容量の搬送機構に乗せると高速・経済的である.たとえば新聞・雑誌は印刷所で多重化し,途中で分解しながら配送するとはやい.一方,仕入れや引越しに,分割・組立て機能が使える:大量物品を分割し,搬送後揃えて到着させる(パケット交換網と同様).CATS逆順ソートするのも,奥にしまう物品から届くので便利である.

 大きさ: カプセルが大き過ぎると軌道の建設費がかさむ.衣服サイズとトンネル内中腰作業を考慮し,標準で幅 650mm×奥行 400mm×高さ 350mm,最大で幅 650mm×奥行 1,100mm×高さ 950mmを試案とする.

 重さ: 高速・高密度運転のため標準は一日の買物位として 6kg,最大は普通小包の最大重量で,一人で持てる 16kg を試案とする.

 速度: 制御がきめ細かな電動方式を採用(他方式: ベルト,気送管).レールでリニアモータ駆動.標準 5m/sec(18km/H),最大 15m/sec(54km/H)を試案とする.フロー制御,優先追越し制御で待ちを減らす.

 運転間隔:各区間の熱量・重量制限値以内に,極力車間を詰めて運転する.


 4.3 きれいに運べること

  振動と傾きは新幹線車内程度に抑える.生卵,ケーキ,電球,出前の麺類が損なわずに運べること.そこで,吊り下げ方式などカプセルの水平維持機構を採用する.台車の衝突防止,加速度制御で衝撃を減らす.


 4.4 確実に運べること

  宛先制御,Autolock,Object Authenticationを行い,人から人に確実に届ける.

 また,以下のような事故対策も行う:

 軌道に人間,動物,異物,泥,水分が侵入しないよう,軌道地上部と家庭用ターミナルを(空間はとるが)カバーで覆う.重量・サイズチェック機構で規格外カプセルをはじく.軌道から延焼,浸水,ガス漏れ,音漏れ,泥棒侵入がないよう,自動シャッタを設ける.細菌や臭いが移らないよう,定期的にカプセルや台車を洗浄施設に送る.
 軌道内で事故が発生してもなるべくトンネルを開函しなくてよいよう,検査車,清掃車,工事車を使い修復する.できない場合は人がはいって換気に注意して作業する.

 規制しても,危険物の搬送や軌道爆破が企てられる.安価な非破壊検査機器ができるまで,受領者が発送可能者を制限できる受領者保護機能,発送者をシステムが本人認証する機能,法規制(限界はあるが),で対応する.海中など高価な軌道は,破損しても損害を局所化するよう,一定間隔で迂回用分岐口自動シャッタを設ける.

 搬送情報と電子取引情報はメッセージ暗号化電子署名により,盗聴やなりすましを防ぎ,事業者に守秘,保管を義務付ける.


 4.5 広範に使えること

  以上の課題を解決すると,CATSは多目的に使える. CATSで買う品物は流通コストが減り割安になるであろう.日常買いに行っていた,衣料品,薬品,雑貨,加工食料品,そして料理や一部生鮮食料品さえも,CATS shoppingの対象になる.空容器,返品,試供品,包装材,ゴミなどの静脈物流に安く使える.現金,有価証券,カード,広告,電子媒体,割れ物,新聞雑誌,手紙も搬送できる.なお,適用拡大には規制緩和も必要である.

 われわれが [1] で「現実社会の都市を,そのまま“架想”都市に写像せよ」と提唱した造りの仮想都市は,CATSで情報流と物流が融合されたとき最も役立つ.たとえば,無店舗事業,在宅勤務,在宅医療,在宅教育の場合,仮想社会生活の併用でサポートされるが,商品見本,過去の書類,医薬品,工作の宿題などが送れて便利である.料理同好会,手芸クラブも楽しい.

 家庭では,残り少い物品を仮想家庭の画面でクリックしておけば,適宜まとめてCATS自動購入され,実家庭と仮想家庭に補充される.したがって,人は買物の計画と実行の面倒さから解放される.


5.制御システムの構成と接続

 各事業者は1個以上の運転制御局OCSをもつ.OCSは協調して物品を広域に搬送する.OCSを構成するサブシステムを示す:

    (1)  Customer Management ──  利用者管理,料金,電子取引連携,統計.
    (2)  Object Flow Control ──  物品の流れの制御.
    (3)  Physical Resource Control ──  物理資源の管理と制御(カプセル,カプセルプール,台車,台車プール,軌道,倉庫,デポ,洗浄施設,保守施設).
    (4)  Logical Resource Control ──  論理資源の管理と制御(CATSアドレス,宛先グループ,宛先変換,各種ID,データベース).
    (5)  Terminal Control ──  ターミナル制御(表示,操作,記憶,情報通信ネットワーク連携).
    (6)  Transaction Management ──  搬送トランザクションの制御(実行管理,ログ,エラー管理,到着期限管理,転送,返送,キャンセル,優先追越し制御,待ち行列制御,入れ子格納/分解,ソート,追跡照会).
    (7)  Routing ──  経路計画,経路制御,中継,迂回,第三者経由,事業者の異なる軌道間をわたる運転の制御.
    (8)  Operation Contol ──  運転制御(分岐,速度制御,加速度制御,区間重量制御,区間熱量制御).
    (9)  Security Management ──  機密保護(本人認証,物品認証,Autolock).
    (10)  Other Systems Interface ──  他の情報通信ネットワーク,CATS業者,外部物流業者,自治体,金融機関などとの通信と情報処理.

 いま,搬送を分散実行するときの実行単位をドメインと呼ぶ.1業者は1個以上のドメインをもつ.ドメインを構成するプロセッサが1 OCSだけで全ターミナルの入出力まで集中制御する形態でも,多数のターミナル,多数のOCSが分散協調処理する形態でも,ソフトウェアは同一のプロトコルで制御できる.ドメイン間の搬送の参照モデルを(通信のOSI参照モデルに習って)設計した(表1).各ドメインの同一層にある手段(エンティティ)同士がプロトコルに則って通信と搬送を実行する:


表1: CATSドメイン間搬送の参照モデル

アプリケーション層 利用者間の物品搬送
プレゼンテーション層 条件,タグの標準形式への変換
セション層 搬送方法選択:一括,返却,配布
トランスポート層 発送者受領者間の透過的搬送:誤り制御,フロー制御,多重化,課金条件に合致するサービス選択
ネットワーク層 2局間の物品搬送:中継,優先
物品リンク層 ドメイン内2局間の搬送
物理層 ドメイン間の電気/機械/論理 接続



6.CATSの効用

 以下の節で述べる利点が複合し,社会に効用をもたらす: 1)ボーダレス社会でも豊かな生活,2)住みやすい社会環境,3)のびのびとした個の発揮.

 6.1 流通の簡素化とニュービジネスの台頭

  流通革命が起こる: 川上から川下まで物流込みの電子市場 が現出する.生産者と消費者の one to one marketing が安くできるので,非効率な流通機構は淘汰される.店舗,倉庫,事務所はなくてもよい.ビジネスチャンスの情報をつかんで契約すれば,物品は指一本で左から右に送るだけの電子化流通業に構造変化する: 電子化商社電子化卸,チェーンストアに対抗できる電子化小売店同盟,まとめ買いして分け合う電子化消費者グループ,土地と自動機器があれば開ける電子化倉庫,電子化トランクルーム業などである.

 また,料理,洗濯,食器洗い,裁縫などを,意欲ある家庭が安い料金で行う無店舗のミニ家事ビジネス,CATSの建設,保守,CATSカプセル広告,搬送保険などのニュービジネスの人口が増える.

 物価を下げて生活を豊かにし,物流に携わる人員を浮かせて企業経営を改善する.物流業従事者はいわゆる“3K職場”から情報処理中心のきれいな職場に移れる.

 流通業/物流業での倒産,失業を防ぐため,電子化流通業のためのソフト,ハード,職業訓練,情報提供,融資を充実し,会社と人の健全な業務転換を助ける.


 6.2 Goods on Demand
    (1) 物がすぐ手にはいる ──  1kmでも最小200秒で搬送できる(スープもあまりさめない).CATSで商品が自動補充できるピッキングシステムに出荷させれば,ほぼ無人で24時間営業できる.

    (2) 物を待たなくてよい ──  長時間配達を待ったり,不在で未達になった荷物を取りに行く必要がない.共働き夫婦,独身者がもっと外で活躍できる.

    (3) 物を持たなくてよい ──  狭い家やオフィスも,物をCATSで外部倉庫に出すことで活用できる(仮想記憶制御が応用可能).押入れ,たんす,戸棚,本棚の空間が浮けば数百万円の得にあたる.

    (4) 買物に行かずに済む ──  街に出掛けにくい弱者も生きていける.


 6.3 ゴミ処理コストが減る


 ゴミは処分場不足が深刻で,処理コストも上昇している.ゴミ専用カプセルで家庭や企業のゴミを処分場に搬送し,洗浄後なるべく同一利用者に割当てる.

 6.4 物のリサイクルができる


 CATSを再処理工場に直結し,紙その他の資源ゴミを安く再利用する.中古品の売買も電子市場で容易になる.衣料品,日用品,電気製品,文房具,図書,DVDが流通する.新品の市場にはややマイナスでも,中古品の紹介・修理ビジネスが伸びる.

 6.5 公害減少と省エネルギー

 ガソリン車などがCATSに変わる分,石油消費,大気汚染(COx,NOx,熱など),交通渋滞,交通事故,騒音,美観損失が減る.

 代わりにCATSが公害を出してはいけない.電力駆動を採用し,機械設計上,摩擦や機械的振動を抑え,惰性運転,電気を返す回生ブレーキ,地上敷設地域では太陽電池の採用でエネルギーを節約する.レールの斜め接合でゴトンという音をなくし,軌道の基礎と周囲に緩衝・防音材を採用し,騒音を減らし,地震にも強くする.有害物質が少なく,製造電力が小さい材料を選ぶ.


7.CATSの事業化

  一貫自動搬送を前提に設計したが,他の物流との併用パターンも(移行期は特に)考える.運輸や郵便とのデポ接続は,ペイするよう,地域普及率,コスト分担,料金配分を考慮して組合せサービスを設計する.新物流とCATSとは接続/統合しやすい.

 CATS事業は,市場原理に基づく経営努力,サービス向上努力の点で民営がよい.それでも独占体制では料金とサービスが心配である.利用者がよい業者を選べ,また,複数の業者のCATSと接続し障害に強くできるよう,どの地点にも国内外の最低2社の参入を許すマルチベンダを採用する.事業地域の境界は自治体境界と独立とし,相互接続させる.

 CATSは普及率が低いと利便性,スケールメリットが出にくい.そこで,業者と利用者の負担を低利融資,補助金で緩和しながら,地域ごとに一括して敷設し,世帯・店舗・会社の70〜100%加入を図る.

 財源は,既設インフラの工事,共同溝,光ファイバー,ITS,新物流,東京L-NET,地下鉄などと横断的に再編成して作る.国債に依存しない.

 利権や税金が食い物にされないよう,規制を最小限にし,情報公開・チェックのルールを作る.継続的に監視し行政に提言するオンブズマン組織もあってよい.


8.おわりに

 公衆自動搬送システム CATSのコンセプトを明らかにした.今後,学際的,業際的に論議,設計,実験をしたい.複雑なシステムなので,要求分析法 USP(User-Oriented System Planning)
[18] が適する.物流インターネット実現の大事業に,情報処理の研究開発者・ユーザ各位のご協力をお願いする.

謝辞

 日頃ご指導いただく富士通研究所 和田英一常任顧問,同 情報社会科学研究所 戸田光彦所長,同 松尾和洋部長に感謝致します.検討に温かく協力してくださった富士通 相越克久氏,今井幸治氏,工藤義一氏,齋藤 昭氏,遠山 忍氏,野中秀樹氏,波多野芳郎氏,森重 明氏,富士通中部システムズ 海野 昇氏に感謝致します.

参考文献

[1] 神田陽治,園部正幸: Socialware: ``架想''世界とデータ世界を現実社会で取り結ぶ情報メディアアーキテクチャの提案,情報メディア研究会報告,95-IM-20-6,情報処理学会(1995.3.10)
[2] Youji Kohda,Masayuki Sonobe: Cyberspace on the Web: Mirror Worlds of Real Cities,Fujitsu Scientific and Technical Journal(FSTJ),Vol.32,No.2(1996.12).
[3] 菊池浩明,園部正幸ほか: 暗号認証技術を利用した鍵管理システムの調査研究報告書,認証実用化実験協議会(http://www.wide.ad.jp/document/historical-projects/icat/index.html)(1996).
[4] 増井誠生,園部正幸: SocialwareLand: WWW上の視聴率・モニター調査機能の実現,情報メディア研究会報告,\ 95-IM-20-5,情報処理学会(1995.3.10).
[5] 徳山日出男:マルチメディア・クライシス,KKベストセラーズ.
[6] 建設省都市局監修: ゆとり社会と街づくり道づくり,大成出版社(1992).
[7] 都市環境問題研究会(鹿島 茂,黒田昌幸ほか): 地下物流システム──地区内新物流システム「ロジスティクスLAN」構想,技報堂出版(1995).
[8] 地域内物資集配送システム研究会:平成7年度報告書(1996).
[9] 長澤利夫:都市内端末物流改善のための新システムについて,交通工学,Vol.30,No.5(1995).
[10] 長澤利夫,長瀬惠一郎,勝又 済: 地域内物資集配送システムの開発,都市と交通,No.38(1996).
[11] 建設省道路局,建設省土木研究所,(財)国土開発技術研究センター,(財)道路新産業開発機構:新物流システム,パンフレット.
[12] 郵政省郵政研究所編: ロジスティクス革命,三田出版会(1994).
[13] 運輸省総務審議官監修:1995 日本物流年鑑,ぎょうせい(1995).
[14] 西郷從節監修,富士通システム総研編:流通ネットワーキング革命──消費者視点の流通構造変革,富士通ブックス(1996).
[15] (財) 流通システム開発センター,流通コードセンター:標準物流シンボル概説(1995).
[16] (財) 流通システム開発センター:電子タグについての調査研究報告書──スーパータグをモデルとして──  (1995).
[17] 緒方健二,栗林誠也:超マルチメディア社会,にっかん書房(1994).
[18] 片山佳則,蓬莱尚幸,渡部 勇,土井晃一,園部正幸:ユーザ指向ソフトウェア開発のための要求分析法の実践について,ソフトウェアプロセス研究会,日本ソフトウェア科学会(1996.3.11).



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