S駅前の広場でタクシーに乗って運転席を見たとたん, 「こりゃやばいっ」 と思いました.でも恐怖で降りられませんでした. 何年か前に乗ったタクシーでも,助手席にあるテレビが運転席を向いて点いていたのにはビックリしました. タクシーのドライバーは,私を乗せて高速道路を走っているというのに,映画をしょっちゅう見ているのです. しばらくして野球中継に切り替えたと思うと,もうテレビにかじりつきでした.どちらかといえば,「たまに前を見て」運転していました. この日私は,生きて帰ってこられてよかったと思います. このS駅のタクシーは,それより上を行っていますね.ご覧のように,運転席にテレビが「鎮座ましまして」います.カーナビではありません. 前方の道路は見えているんでしょうか. 数分で目的地に着くまで,私はひやひやでした.でもこうして証拠写真は撮りましたよ. もっと怖いタクシーもありました.そのお話をしましょうか. それは帰宅のために都内で拾った黄色いYC社のタクシー. 夏でしたか,午後6時頃でもまだ明るかったと思います.高速道路を使って帰ることにしました. ドライバーの歳は30前後ですがまだ新人で地理が分からないといいます.うろうろ走り回って無駄に時間が過ぎていきます……. 高速に乗るのにどうしたらいいか分からないというので,まず東京駅に向かってもらいました.すると,お掘端の交差点から駅に向かって,何を思ったか中央分離帯の「右」に進入しはじめました.これは正面衝突コースです.対向車が真正面からやって来ます.慌てて指摘して正しいコースに回ってもらいました. 交差点では停止もしないで,右折指示も出さず,いきなりズルッと右折してしまいますので,後続車や対向車は,さぞ怖いことでしょう. オートマ車でアクセルを踏み続けなので,数秒で時速100kmになります. 走りながら地図を取り出して見はじめます.しかも地図はハンドルの上に広げます. エイヤと乗った首都高は,私の自宅に向かうどころか,仕事場に向かう線でした.反対側にはいってしまったのですね. 呆れて,高速からいったん降りるように依頼したら,なんと……. 車を高速道路のなんでもないところの左側に停めて,また地図をハンドルの上に広げようとします. 交通量の多い線ですから,平然と止まってしまったタクシーの後ろからは大型トラックなど時速80km〜100kmの車が,次々と 「ンーーービュンッ,ンーーービュンッ」 と,魚が身を翻すように飛ばしていきます. このときの数秒間は,死ぬかと思いましたね.ドライバーをせかしてとにかく発進させ,次の出口で降りさせました. 私はもう高速は怖くなったので, 「一般道路で行ってください.」 と言ったら,地図を見ながら急加速,急減速,急右折,急左折の連続. 「この分だと自宅に何時にたどりつかるか分からない.ひょっとすると永遠にたどりつけないかも…….」 私は電話ボックスを見かけたのをこれ幸いと, 「遅くなったので家に電話をしないといけないからここで降ります.」 と言って,「ちゃんと」料金を払って降りました. ドライバーは 「電話が済むまで待っていますからどうぞ.」 と言いましたが,誰がまた乗るものですかねぇ……. 私がこうして見知らぬ町でやっと下車したとき,日はとっぷりと暮れていました.
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